中国への輸出が大きかったホタテが禁輸で大変、というニュースのあとに、「食べて福島を応援しましょう」ときて、「私も応援します。いわき市にふるさと納税しました」というコメントをキャスターが出していて、かなりずっこけました。
応援は大変ありがたく存じますが、今回、損害が大きいのは福島の漁業ではありませんので、ホタテやナマコ、ブリ等、輸出額が大きかった水産物も応援してさしあげるとよいのではないかと思います。
中国への輸出が大きかったホタテが禁輸で大変、というニュースのあとに、「食べて福島を応援しましょう」ときて、「私も応援します。いわき市にふるさと納税しました」というコメントをキャスターが出していて、かなりずっこけました。
応援は大変ありがたく存じますが、今回、損害が大きいのは福島の漁業ではありませんので、ホタテやナマコ、ブリ等、輸出額が大きかった水産物も応援してさしあげるとよいのではないかと思います。
日中対立で露見した「政治の不在」 お互いの足元には苦悩する国民が:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASR805RGMR80UHBI019.html
こちらの記事に、2021年4月の趙立堅報道官(当時)のツイートが触れられていますが、これ以降、Twitterの福島言論は、保守、というよりも嫌中というべきでしょうか、の牙城になってしまったので、一般人は、保守の意向に沿った意見をいうのでなければ、福島在住の人間であっても、到底立ち入れる領域ではなくなりました。
頼むから、ソーシャルメディアの意見をそのまま世論として扱わないで、と思います。
ホタテ、ブリ…輸出できず「億単位の損失」も 中国禁輸、業者に影響:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASR805Q1MR80UTIL018.html
詳しく取材されている記事です。
「根田社長の目には、国の支援は漁業者だけに手厚いように映る。「流通加工する者、トラックで運ぶ運送会社、保管する倉庫会社、皆さん困ることになる。その人数は、一次産業の約5倍。その現実に目を向けて欲しい」と話す。」
これはそのとおりだと思います。
結局、福島の漁業の水揚げ量を増やすのが難しくなっている理由のひとつが、賠償が漁業者に片寄り、賠償をあまりもらえなかった周辺産業は、廃業してしまったため、水揚げを増やそうにも増やせないという要因もあると聞いています。
このことは、漁業者だけ賠償をもらえている、という地元でのやっかみにもつながっています。
漁業は漁師だけいれば産業として成立するわけではないですから。
なんだか、いよいよ原発事故直後の再現めいてきました。
民主党時代だったと思いますが、「死の町」といって大顰蹙を買って、それで大臣を辞任したのでした。
ほかにも失言騒動がありました。
農相が処理水を「汚染水」と言い間違え 首相、謝罪と撤回を指示 | 毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20230831/k00/00m/010/229000c
中国がTwitter上で、福島原発の危険性を2021年頃にあおり始めた時期から、急激に、Twitterの福島言論はネトウヨ化してしまったのですが、たぶん、今回の中国の電凸等によって振り切れてしまうのではという気はします。確認はしていませんが。
これで、福島を旗印にして極右勢力が台頭したらいやだなぁ、と思います。
事故直後は、極左とまでは言わないですが、左翼が福島を旗印にしようとして、失敗したわけですが、こういうのが、放射能関係のほんとうにめんどうくさいところです。
株価にも影響が出ているのですか…。ここまでくると、さすがに私も想定外です。
ただ、処理水放出は、ソ連のチェルノブイリ事故収束によって急速に悪化したソ連の状況を連想はさせました。
(友人いわく、私の「動物的勘」による。)
原発事故収束は、国家にとってとてつもない大事業で、場合によっては国家経営そのものを揺るがす危険性さえ孕んでいるのは、チェルノブイリの事例からわかっていました。
懸念していたのは、その危機感や緊張感をそもそも国家運営する人たちが抱いていない、ということでした。これも、巨額の復興予算がもたらした統治機構の全能感ゆえだと思います。
インバウンド銘柄に冷や水、処理水放出に中国反発-旅行など影響懸念
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-08-28/S02TI4T0G1KW01
中国の輸入全面禁止の影響は、もともと中国に輸出できない福島県内の漁業には影響はほとんどないので(香港は輸出可能だったけれど、県内の水揚げがもともと少ないので輸出もほとんどなかったと思われ)、県外の損害が大きくなると、福島の漁業者への手厚い対策に比して、他県の漁業の方が対策が薄い、ということになって、福島県内外での不公平感が強まるようなことになりそうな気もします。
これまで、宮城と茨城でそれが起きていて、福島の水産業への風当たりが強かったとも聞いています。
本日の日経に東電の経営記事も載っていました。柏崎刈羽の再稼働がなければ、東電の収益の改善見込みはないのですが、東電の相次ぐ失態によって再稼働の見込みは立っていません。
今回の処理水放出の強引さが及ぼした影響の大きさを考えると、柏崎刈羽で強引な再稼働をふたたび行うことは政治的には不可能であろうと思います。
技術力の低下を考えれば、再稼働後になんらかのトラブルは必ず起こるはず。
東電、処理水放出も収益低迷 廃炉費用8兆円重く
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC181S30Y3A810C2000000/
毎日新聞に掲載された北海学園大学の浜田武士さんのインタビューでも言及されています。
こういう広報戦略のあり方ひとつについても、まともに戦略を練る機関が日本にはどこにもないのですよね。
だから、なにひとつ政策技術として蓄積も定着もしていかない。毎回毎回なにか起きるたびに同じ失敗ばかり繰り返して、広告代理店とコンサル会社や、うまく取り入った人だけが儲かる。
ソーシャルメディアは気軽に書けすぎるので、自分の書いたことに「引っ込みがつかない」状態にもなりやすく、実名で職業上使っている人ほど、その罠にはまって、軌道修正ができなくなって、どんどんエスカレートさせていく、ということが、ソーシャルメディアが社会の分断を激化させていくメカニズムにあると感じています。
それに、嘲笑文化が拍車をかけて、軌道修正すると嘲笑されるなら、途中で自分で「あ、しまった」と思っても、そのままぶっちぎってしまった方がマシ、という事態になるのだと思います。
それでこじらせていった著名人もたくさんいるように思います。
「風評」問題は、風評対策を行えば行うほど、「風評がある」という状態が刷り込まれ、逆に風評が固定化してしまう、というパラドクスもあります。これは、啓蒙を行うほど風評が固定化する事態を招きかねない、ということをも意味します。
正直、啓発や啓蒙の力を、私はそんなに信じていなくて、もっと国が安全性を説明して国民的理解を得るように、とよくなされる要求も、かえって風評を固定化するだけなのでは、という気がずっとしていました。
noteに書いた2016年のグリーンコープ誤報事件、民友の記者さんも福島の方で、福島のためと思ってやったのだろうから、本文には書かなかったのですが、あの報道など、一連の「風評に苦しむ福島」告発キャンペーンによって、福島=風評のイメージは、逆に全国的に広く固着化してしまった、とも思っています。
今日の日経の記事。短いですが、処理水の水産業への影響をうかがうのには非常に重要な情報です。
19年調査比90パーセントの伸びということは、今後さらに輸出を増やすために設備投資等を行なっている企業が多くあることを示唆しており、その投資分が回収できなくなる危惧、さらに、賠償は過去の売り上げを基準にするため、売上が急速に伸びている段階であると、到底損失をカバーできない、という問題も直撃することとなります。
これまでの福島県の漁業者への賠償とは次元の異なる厳しさになると思われます。
中国への水産品輸出164社 帝国データ調べhttps://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC259650V20C23A8000000/
「中国に輸出をしている食品関連企業が700社超におよぶとの調査を発表した。うち水産品関連は164社で19年と比べて9割増えている。」
フィリピンの漁業者団体が処理水放出に抗議活動を始めたというニュース、なぜなのかフィリピンの人に尋ねてみたところ、ごく最近、近海でタンカーからの大規模な原油流出事故があって、漁業者は大規模な損害を受けたことが大きなトラウマになっているとのこと。
もともと島国であるフィリピンにとっては漁業は主要産業でもあり、原油流出事故の影響もあって、国民全般としても海洋汚染そのものに対する拒否感が非常に強いとのことでした。
https://mainichi.jp/english/articles/20230823/p2g/00m/0in/034000c
南太平洋諸国が過去の核実験によるトラウマで拒否感が強いのと同様に、なんらかの過去のトラウマ的事件の記憶と結びつくということです。
漁業が大きな産業であるようですし、今回の抗議活動もそれなりの規模になるかもしれません。
「科学的に正しい」の説明だけでなんとかなると思っている人たちは、人間に対する認識と理解が少し不足なさっているのではないかと改めて思います。
中国の輸入規制による損害は、先が見えなくなったわけですが、賠償しなければ不満が爆発、賠償をすれば東電は破綻、という世界線になるわけで、どう考えてもおとなしいところに収束できる道筋が想定できません。
想定外のわけないだろ、とのコメントが殺到している感のある記事なのですが、永田町と霞ヶ関の人たちの感度って、ほんとに、「常識的に考えればこうなる」というところから、まるで共有できていないずれ方なんだと思います。
私もずっと中国の反応が焦点でかなり厳しい対応になるのでは、とこちらでは書いてきたのですが、どうやったら中国が放出した後に強硬な対応を取らない、という想定ができるのか、そちらの方が理解に苦しむ次元だと思うのですが…。
中国の全面禁輸「想定外」 政治問題化する処理水放出…不信募る日本:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASR8S72CVR8SUHBI04W.html
安田峰俊さんのコメントがとても参考になりましたので、コメント必読だと思います。
【解説】個人的な意見となりますが、こちらの理由についての見方は3点あります。
◾️
まず、ひとつめは中華圏(中華人民共和... https://www.asahi.com/articles/ASR8S72CVR8SUHBI04W.html?comment_id=17342#expertsComments
ここ数日の私の印象は、処理水放出にかんして、想定できる範囲内で最悪に近いレベルで負の影響が大きく出ている、というものです。
各方面に与える負のインパクトをいかにうまくマネージし、ダメージを最小化するか、というところがリスク・マネジメントのポイントですが、それを考えたときに、うちわの辻褄は合わせて政権へのダメージインパクトは最小化したかもしれないけれど、代わりに日本全体へのダメージは最大化する方向へ進んでいる、という印象です。
考え方の根本がなにかまちがっているのでは、という気がします。
それから、現在、水産業に取材をした記事や番組で「前向きにがんばるしかない」といったトーンで、がんばりを前面に出したものも多く見られますが、そのときに留意していただきたいのは、現在テンションをあげて前向きを強調するのは、火事場の馬鹿力的な、危機において自分自身を防御するための自己防衛反応に近いものである、ということです。
東日本大震災の被災地で、被災直後に多く見られた現象と同じです。
がんばる被災者、奮闘する被災者、です。
ただ、復興のプロセスが経過していくに従って、多くの人たちはそのままならなさにもがき苦しむようになり、失望感が広がった、ということは忘れてはならない事実です。
疲弊した大きな原因には、行政の復興政策対応もありました。
処理水問題も長期にわたるため、政府がトップダウン的な縦割り行政でがんじがらめのやり方を変えるつもりがない以上、同様の経過をたどる可能性が非常に高いと思います。
今の自己防衛のためのテンションが高まった状態の人たちを「がんばる被災者」として打ち出すことにはメディアは慎重であるべきだと思います。
官邸の裏舞台を描いた記事ですが、このとおりだとすると、本当に首相官邸も首相本人も、処理水放出が日本にもたらすインパクトの大きさを、まるで理解できていない、ということになります。
視野狭窄的、とくりかえし指摘していますが、ことの大きさそのものがそもそも理解できていないので、自分たちの内側での辻褄合わせに腐心し、それで満足できるのだろうと思います。
たしかに、今回の進め方は、うちわでの辻褄合わせは実にうまくできたやり方だと思います。
ただ、そのやり方では逆に日本全体のダメージは最大化している、ということを感じてもいない、というところは、空恐ろしくさえあります。
「もう収まらない」処理水放出前に漏らした首相 選挙と中国を意識
https://digital.asahi.com/articles/ASR8S6WNBR8SUTFK011.html?iref=comtop_7_01
東京電力社長「賠償はしっかり応じる」 中国の日本産水産物全面禁輸発表を受け
https://news.yahoo.co.jp/articles/c56caf8cd3277446141bf4d4fbe1cd0363de108a
大風呂敷を広げていますが、これは、事態の帰結をコントロールしようとする意思をもつ人間が意思決定側にどこにもいない、ということだと思います。
客観的に考えて、直接の禁輸の影響のみならず、相場値崩れによる損害まで賠償に含まれるとすると、件数も金額も大変なものになると思います。
ましてや、禁輸措置が仮に年単位で続いたとすると、賠償依存構造と産業の衰退が日本全国の漁業で起こることになります。
また、東電の賠償費用の転嫁先は日本国民になりますから、将来的な国民負担にかんしても、誰もなんとかしなくてはならない、と考えていないのだろうと思います。
その場しのぎで誤魔化し続け、事態が雪だるま式に悪化していくパターンがここでも繰り返されることになるように思います。
「科学的に安全です」を周知すれば、問題が解決するのなら、廃棄物処理問題も火葬場問題も、迷惑施設問題のほとんども、この世に最初から存在しません。
問題は科学じゃない、ということに、先進国じゃなくても関心を持って勉強している人は、全員気づいているのに、日本だけは昭和頑固おじさんたちが「科学的に正しければ問題ない!」と頑なに言い張って、ああ、このまま世界から2周遅れめに突入するんだなぁ、と遠い目になります。
作家/NPO福島ダイアログ理事長/博士課程後期在学中 原子力災害後の復興政策と地域住民のギャップを埋めるためのローカルプロジェクトの意義と重要性について研究する予定。・著書『海を撃つ』(みすず書房) 『スティーブ&ボニー』(晶文社) 『末続アトラス2011-2020』(福島のエートス)寄稿や講演・講義のご依頼承ります。業績については、researchmapをご覧ください。連絡先:スパム予防で全角にしてあります。全体を半角英字に、(@)→@に置き換えてご送付ください。 ryoko_ando(@)me.com
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