"「これから大変な仕事が待ってるぞ!」
有名な冒頭がこれに変わっています。「おい地獄さ行ぐんだで!」が、何でこんなにも浅薄な文章に転換できるのでしょうか。驚くというか、ショックというか言葉がありません。その後の文書もあまりに軽く、原作独特の行間から漂うすえたような臭いを感ずることはできません。
どのような目的で、この現代語・新訳が生まれたのか分かりませんが、この様に物事を単純化し、削ぎ落とすのが今の社会の一面なのかもしれません。色々なことを削ぎ落とし単純化して輪郭をクリアにして、分かりやすい言葉で伝えることが重要な場面も多々あります。しかし今回の新訳は、『蟹工船』の毒を完全に抜いてしまったと感じます。
毒を抜いて柔らかな言葉で伝えること、これが今の社会の一面なのかもしれませんが、分かりやすさには、多様さを失わせ価値観を固定化させる危うさもはらんでいます。
私も注意しながら対応したいと思います。"