さて肝心の「1Q84」が文芸作品としてどうなのかというと、はっきり言ってB級エンタメだと思う。こういうのが好きな人たちが大勢いるだろうとは思うが、僕には、これが「羊をめぐる冒険」や「ねじまき鳥クロニクル」を書いた村上春樹本人の作品だとは信じがたいほど、その質的な低下に落胆する。(スタイルの変化ではなく)まあ、僕の感性が致命的に劣化したという可能性もあるし、そもそも15年以上前に刊行された本に、今ごろ何ゆうてんねん、という気もする。ところで、今世紀に入ってからの村上作品には、やたらと特定のブランドや商品名が出てくるが、これはいったいどういう趣向なのだ?田中康夫さんですか?この現実世界から隔絶されたまったく別の世界でのファンタジーではないことを明示する意味なのか?けど、そんなことぐらいで物語にリアリティが生まれるわけでもないし、ただ単に低俗なムードが漂うだけじゃないか。(ついでにいうと、リアリティというのは、その物語が現実世界でいかにも起こりえそうという意味ではなく、その物語がその世界でどれだけ説得力を持つかということだ)