袴田巌さんの最新無罪判決。自白調書、血痕のついた5点の衣類、ズボンの切れ端、の3つの証拠について捜査当局のねつ造を認めた判決は踏み込んでおり評価に値する。これは検察側の控訴に高い壁となるもので、裁判所として検察による控訴の選択肢をできる限り塞ぐ意図があったと見ることもできる。たんに無罪判決を出すだけならば、争われていた血痕のついた5点の衣類についてだけ証拠能力がないと判示すればよかったので、あえてそこから再審で争点にすらなっていなかった証拠まで踏み込んでねつ造との見解を示すにはそれなりの意図があったと考えるのが自然だろう。
他方で、警察・検察による証拠のねつ造や、拷問によって自白を強要する取り調べが行われていたことは当初から指摘されていたわけだし、袴田さんを犯人として公判を維持する上で重要な点を公判中に変更するなど明らかに不自然な点が多々あったにもかかわらず、無条件に検察の主張を受け入れて袴田さんを有罪にし、死刑囚として不当に身柄を拘束し続けることで拘禁症により人格を奪ってしまったことに対する裁判所の重大な責任については、報じられているところではまったく反省も謝罪もなかった。