→ けれども、オンラインで拡散するデマや誹謗中傷をひとつのテーマとする本書では、そのような「事実」の記述自体が仕掛けというかいわばトラップとして機能しており、読者は、〈おおやけ〉で検証可能なはずの事実の提示に受け身で押し流されているうちに、気が付くと、〈わたくし〉と表現される個人的な領域、私的な領域に関わる事がらに入り込んでしまっている。
私自身、なんとなくそれを感じながら流し読みしつつ、物語の最後で『彼岸花』『生を祝う』にも通底するSF的(?)な空想が日常生活に溶けこんでサラッと示されるにあたって、その「なんとなく感じていたもの」の危うさを一気に目の前につきつけられた感触があった。
終盤になるまでそこを明確に意識できないのは読者としては鈍いのかもしれないけれど、それでもあの流れには「ああそうか」と視界がクリアになるような爽快感があった。
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