「味の素はちょっと使うのがいい」とは魯山人の専売特許ではなく、下母澤寛『味覚極楽』でも、味の素の社長が「味の素をいちばんうまく使っている」と紹介した料理屋に取材している。一方で下母澤は、自分の家では「甘ったるくなるほど」味の素を使っていた、と述懐していた。
下母澤が『味覚極楽』のもとになった新聞連載をしたのは1927年だったが、同書は「味の素」の鈴木三郎助にも聞き書きしている。その節では、「味の素はマムシの粉末が混ぜられている、鉄道事故が起こって味の素向けの貨車が壊れた時、駅じゅうにマムシがちらばった」という噂があったと書かれている。
味の素は今も昔も便利だけど、「グルタミン酸ナトリウム」という耳慣れない(かった)物質が、得体の知れなさを感じさせるというところも、今も昔も変わらないのかもしれない。