記事(後編)の引用を孫引きすることになるが、
<前出の西川祐子(文学・ジェンダー研究)氏はいみじくもこう述べている。「じつは日本の近代小説は、家を建てたら幸せになると思ったのに不幸ばかりおこりましたという話がほとんどなのである」(『借家と持ち家の文学史』)>
というくだりには、思いあたるふしがあった。
福永武彦の中編小説を読むと、家と会社とを結ぶ鉄道の存在が登場人物の心理に深い影を与えていることがわかる。他にも山田太一のシナリオや諸星大二郎の短編マンガ、あるいは山際淳司の掌編など、鉄道と沿線に遍在する「家」との相関を描いた物語は、明るく健全な家庭の理想像とはほど遠い、不幸な陰翳を含んだものが多い。三多摩の私鉄沿線を舞台にした原武史の『滝山コミューン一九七四』なども同系列に数えてもいいだろう。
しかし、鉄道の発展と沿線に育まれた市民生活についてを、時系列的しかも肯定的に描いた小説が皆無なわけではない。磯﨑憲一郎の『電車道(2017年)』は、いっけん幻想的な寓話のようでありながら、じつは史料が丹念に織りこまれた稀な小説である。未読の方はぜひ。
https://www.shinchosha.co.jp/book/317712/
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岩下 啓亮 (iwashi_dokuhaku@toot.blue)'s status on Tuesday, 20-Dec-2022 13:24:16 JST岩下 啓亮