先日ある研究会にお誘いいただき、そこで報告されるという方の著書を事前に入手して読んだところ、大変面白かったのでご紹介します。河原梓水『SMの思想史 戦後日本における支配と暴力をめぐる夢と欲望』という本です。雑誌『奇譚クラブ』を史料に、戦後の一面を描きます。
SMのような一般的でない性的嗜好を追った研究というと、「こんな人たちがいました」で終わってしまいがちですが(それだけでも十分意義もあれば面白いと思いますが)、本書はそこからさらに戦後の思想状況を描き出し、現在の私たちにとっての課題にも新たな視角を示すのです。他人事ではないのです。
サディズムやマゾヒズムに惹かれた戦後の人びとは、自分の感性と社会の折り合いをどうつけるのかに悩み、雑誌を通じて交流し、自らも筆を執って「告白」形式の作品(それはポルノとして消費されたけれど、内面の吐露でもある)を載せ、自己を模索しました。その真摯さには頭が下がる思いです。