ちゃんと取材してる人の視点
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川上泰徳 中東ジャーナリスト
【視点】とりあえず、ハマスを悪者にした上で、イスラエルの軍事行動の「やりすぎ」に物を申すという米国人の良心的なジャーナリストのコラムということだろう。数日前にガザのハンユニスに住む人権活動家と連絡をとったところ、3月末にガザ北部で3日間続いたデモは、もともとイスラエルによる攻撃再開と、北部住民への避難命令に抗議して始まり、「戦争反対」を求めるもので、その中に「反ハマス」の人々も入ったということだった。
「ガザにはハマス支持者もいれば、反ハマスの人間もいる。デモをして、反ハマスの声が出るのは自然なこと」とかなり冷静にとらえていた。それに対して、欧米メディアは一斉に「戦争が始まって以来の最大の反ハマスデモ」と報じ、このコラムニストは「ひとときの希望」ととらえたということだ。
ガザの一部の人々が「反ハマス」でデモをしたことが、本当に「希望」なのだろうか。もし、ネタニヤフ首相が、ハマスが抵抗をやめ、人質を全員解放し、ガザ統治から退陣すれば、戦争を止めるといえば、それはガザの人々の「希望」を与え、「反ハマスデモ」はガザ全域に広がるだろう。
しかし、「反ハマスデモ」が大きな動きにならなかったのは、ネタニヤフ首相の狙いが、ガザ民衆の排除であって、「ハマス壊滅」というのは戦争継続の口実にすぎないのではないかという疑念がつよいためだろう。
「ハマスとイスラエルが戦争を終わらせる合意に達するには途方もなく隔たりがある」というのは、1月に合意した停戦の崩壊の事実関係を見る限り、戦争終結のための停戦第2段階に進むことを拒否したのはネタニヤフ首相であり、戦争終結の協議に入らず、人質解放を求め、戦闘終結を求めるハマスが拒否すると、攻撃を再開した。
米国人ジャーナリストとしては、ハマスとネタニヤフ首相を同列におき、パレスチナ民間人も、イスラエル人人質も、その犠牲者という図式に落とし込んだうえで、米国が供与した爆弾による爆撃で多くの子供たちが手足を切断で失ったという話を持ってきて、その上で初めて、「ネタニヤフ首相は停戦合意を破り、多くのイスラエル人とパレスチナ人が一致している感情、すなわち戦争が終わるべきだという合意点に逆らっている」と語ることができるのだろう。この記事には、米国人ジャーナリストの苦労がにじみ出ていると思う。
https://www.asahi.com/articles/AST4B26KTT4BUHBI038M.html?comment_id=33517#expertsComments