そもそも「言論のアリーナ論」というものの存在を知っているチェーン書店員がどれだけいるのか。低賃金で働かされている者が人文書(基本的に高価)を読む余裕があるのか。さらにそもそも、その本に書かれていることが差別言説であることに気がつけるチェーン書店員がどれだけいるのか。チェーン書店の現場を回しているのはパートやアルバイトの非正規労働者である場合が多い。当然、かれらの「知」が足りないのをかれらの努力不足のせい(だけ)にしてはならない。そのうえで、書店現場の実際は、「それが腐ったキャベツであることを見抜けない店員」によって「無造作に置かれている」というものであり、それは決して福嶋の考えるアリーナではないはず。つまり、「ヘイト本を認識したうえで闘わせる」という福嶋のアリーナ論を実践できている書店など、極少数である。