『サウルの息子』という2015年のハンガリー映画があります(本邦公開は2016年)。この映画は、ここ10年程のホロコーストを題材にした映画の中では、国際的に最大級の好評をもって受け入れられた作品で、深遠で鋭い批評性もあわせ持った傑作です(ただし、とても暗く重い作品なので、気楽に鑑賞できるといった類のものではありません)。
この映画では、ホロコーストやガス室という災厄の表象不可能性について、それを闇雲にシンボライズや説明化しようとせず、表象不可能な災厄が上映時間中ずっとスクリーンにもやのように漂っており、観客にもそれを追体験することを強いるというような果敢な撮影アプローチを取っています。