そんな感じでどうにも整理がつかないまま大人になったのだが、彼の死後出された『表裏井上ひさし協奏曲』(元妻の西舘好子氏が書いた回想録)を読んだ時はほんとに辛かった。好子さん、ひさしさん、それぞれの人生の交錯の物語。読んでるといろんな感情が去来するのだけど、現実としてやはり相当酷いことが行われている。真に価値のある作品を生み出すことにこだわる余りに眼の前にいる現実の人間を蔑ろにしている。それはやはりダメだろうと思う。
好子さん自身は、昔のことだしそれなりに距離を取って述べているので、貴重な体験談でもあり歴史の証言でもある。そして、人の人生って一筋縄でいかないし、他人があれこれ評価することなどできないよな、ていうことをものすごく考えさせられる。
こういう話を「美談」にしてはいけないのはもちろんだ。現実の人間の“犠牲”のもとに書かれた作品たちをどう見るのか、てことについては厳しく問われないといけないとも思う。でも一方で、とても正直に告白すると、全部を否定することのできない自分もいる。人生を振り返ってみたときに、全てが愛おしく思える…ていう感情が湧いてくるのも事実。
(もうちょっとつづく)