井上ひさしの書くものからは、人間に対する優しさを感じる。世の中の不条理に怒り、それを笑いや風刺に変えて作品として昇華する技はすごいと思う。そして最後にはやっぱり人間を信頼したいのだという意志も感じるのだよな。いつもそれが根底に流れている。そこに対しては疑いはない。だからこそ好きになって読み続けたのだし。
彼は戦後の貧しい時代に、家庭の事情もあってカトリックの孤児院で育っているのだけど、そこで、自分たちはボロを着ながら汗水流して孤児たちを食べさせてくれてた神父さんたちの姿を見ながら子ども時代を過ごしている。厳しさはあったみたいだけど、おそらくそれが彼が初めて出会った信用できる人だったのだろうと思う。後年、「私は神を信じたのではなく、神を信じている彼らを信じたのだ」って書いてて、それを読んで、ああ、この人は信頼できる、と思ったのを覚えている。