こんにちは。
NPO法人POSSEのボランティアです。
先日8月1日、63年ぶりに国が行った家事労働者の実態調査の結果が、労働政策審議会で発表されました。当日、家事労働者裁判の原告のご遺族と私たちは、労働政策審議会の傍聴へ行きました。
調査結果は、以下のサイトにまとまっていますので、ぜひご覧ください。
「家 事 使 用 人 に 係 る 実 態 調 査 に つ い て」(厚労省・労働基準局)
また、報道もありましたので、共有致します。
10時間勤務なのに「休憩なし」も 3割超「賃金定めず」 家事を代行する労働者の実態 厚労省調査(8/1・東京新聞)
その上で、今回の調査結果から見えてきた問題について、簡単にではありますが私たちでも整理してみました。太字部分が分析になりますので、ぜひご覧ください。
【基本情報】
・対象者
全国の家政婦(夫)紹介所に登録され、個人家庭と契約して働いたことのある「家事使用人」
・調査部数
有効回収数 1,997部(有効回答率 21.7%)
【基本属性】
・年齢は、「70代」が50.1%、「60代」が27.4%で、これらの年代が全体の77.5%を占める。
・性別は、「女性」が全体の98.8%。
・通勤・泊込の別は、主に「通勤」が83.8%、主に「泊まり込み」が8.9%、「両方(通勤・泊まり込みが同程度の頻度)」が6.0%。
【家政婦(夫)として働いている理由等】
・家政婦(夫)の職業を選んだ理由は、「年齢問わず働けるから」が51.9%、「収入を得るため」が50.1%、「自分の都合に合わせて好きな時間に働けるから」が39.0%。
「家事使用人」として働いているのは、大部分が高齢女性ということがわかりました。高齢女性が家事労働者として働いているのは、医療や介護の費用負担の増加や支給される年金の削減などから「働かざるを得ない」こと、また就職活動において年齢や性別を理由に相対的に「良い条件の仕事」へ採用されにくい状況があることがあると思われます。そのような理由から、労働環境が劣悪で人手不足な家事代行業界で高齢女性労働者が働いているのではないでしょうか。
【1日当たりの平均勤務時間等】
・1日当たりの平均勤務時間(休憩時間を除く)は、「2時間未満」が14.4%、「2時間以上5時間未満」が43.0%、「5時間以上10時間未満」が23.0%、「10時間以上」の合計が13.2%。
・求人者の家庭に決められた休憩時間(睡眠時間を除く)は、「休憩時間はない」が47.1%。1日当たりの平均勤務時間別に見ると、平均勤務時間が「5時間未満」の60.8%、「5時間以上10時間未満」の27.2%、「10時間以上」の33.0%が、求人家庭に決められた休憩時間について、「休憩時間はない」と回答。
・あらかじめ決められた休憩時間と勤務時間の違いが明確かは、「いいえ」が63.3%
1日の平均勤務時間は「10時間以上」が13.2%、このうちの3割は「休憩時間がない」と回答しました。多くの高齢女性が過酷な労働をしていることが浮き彫りになりました。休憩時間と勤務時間違いが明確かについては、「いいえ」が63.3%で、多くの家政婦は休憩を決められた時間に取ることができず、家主の都合に合わせて働かないといけないということを読み取ることができます。
【深夜22時以降の労働等】
・1週間の平均勤務時間(休憩時間を除く)は、「10時間未満」が35.5%、「10時間以上20時間未満」が26.7%、「週60時間以上」は2.9%。
「週60時間以上」は国が医学的知見から定めた過労死ライン(残業80時間以上)を超える労働時間です。調査に回答した人数を約2000人、「週60時間以上」と答えた人数を約3%として計算すると、約60人が過労死が起きてもおかしくない状況で働いていることが分かります。
【業務内容、業務の指示】
・普段行っている業務内容は、「掃除関係の業務」が84.6%、「食品・料理関係の業務」が66.9%、「衣類・洗濯関係の業務」が65.2%、「高齢者介護・認知症介護」が46.4%、「住生活関係の業務」が41.1%。
(※)「高齢者介護・認知症介護」を選択した者に対して、「これらの業務は介護保険に基づいて行っているか」については、「はい(介護保険に基づいている)」が32.6%、「いいえ(基づいていない)」が48.3%となっている。なお、介護保険による業務については、居宅サービス計画(ケアプ ラン)等に基づき、指定訪問介護事業所等の指揮命令下において提供されるものであり、個人家庭と直接契約して行う家政婦(夫)としての業務とは異なるものと考えられる。
・通常、家政婦(夫)業務に関する具体的な指示を行う者は、「実際に家政婦(夫)として働く家庭の雇い主本人、又は家族」 が80.2%、 「家庭外の会社(訪問介護サービス事業者や家事代行サービス業者等)」が19.6%、「職業紹介所」が19.3%(複数回答可)。
「家事使用人」の約半数は「高齢者介護・認知症介護」も行っていることが分かりました。このうちの48.3%は「介護保険に基づいていない」形での介護を行っており、多くの家庭で介護と家事は渾然一体となって提供されていることが分かります。去年9月に出された地裁判決では、1日5時間の休憩時間を除く19時間の業務のうち、裁判所は介護保険に基づいた4時間30分のみを労災の対象として認めましたが、この調査結果から介護と家事の時間を形式的に二分できないことが読み取れます。
また、「家庭外の会社」から指示を受けて働く人が19.6%、「職業紹介所」から指示を受けて働く人が19.3%いることから、実態として、個人家庭ではなく家事代行業者や紹介所等の労働者として働く「家事使用人」も多いのではないかと思います。法律上、個人家庭との直接契約ではなく仲介会社に雇用されて家事労働を行っている人は、「家事使用人」とならず労基法・労災保険等が適用されます。今回亡くなった家事労働者のAさんに関しても、紹介所から業務指示を受け賃金が支払われていたので、実態としては「家事使用人」ではなく、労基法や労災保険が適用されるべき労働者であったと私たちは考えています。
【契約の内容、報酬】
・契約の内容は、多い順に、「勤務時間」(86.4%)、「業務内容」(81.4%)、「就労場所」(74.3%)、「賃金額等の賃金に関する内容」(68.2%)、「契約期間」(56.8%)となっている。
・家政婦(夫)としての1か月当たりの報酬は、「5万円未満」が34.4%、「5万円以上10万円未満」が32.2%、「10万円以上15万円未満」が15.6%、「15万円以上20万円未満」が8.4%、「20万円以上」が6.2%となっている。また、報酬の支払い方法は「家庭から現金を手渡し又は口座振り込み」が63.0%、「職業紹介所経由での支払い」が31.2%となっている。
「家事使用人」として働く人は、契約内容が明示されないまま不安定な労働を強いられている実態がわかりました。賃金が定められていない人が31.8%、契約期間が定められていない人が43,2%、休憩時間が定められていない人が74,4%、休日が定められていない人が74,8%などにも及んでいることが明らかになりました。
また、報酬については31.2%が「職業紹介所経由での支払い」となっており、本当に「家事使用人」であれば個人家庭から支払われるはずなので、実態としては労基法が適用される「紹介所に雇用された労働者」である人が一定層いると思われます。
【病気・けが、労災保険の特別加入の状況】
・業務中に病気やけがをした経験があるかについて、「はい」が15.2%、「いいえ」が81.5%。
(※)病気やけがの内容は、「骨折・ヒビ」が27.1%、「切傷」「腰痛」がそれぞれ26.4%、「打撲」が24.4%。
・労災保険に特別加入しているかについて、「特別加入している」が34.3%、「特別加入していない」が43.1%、「分からない」が13.2%。
・特別加入していない理由は、「民間保険に入っているから」が57.0%、「制度を知らなかったから」が19.3%。
業務中の病気やけがに関しては、15.2%が経験しており、この中でも「骨折・ヒビ」という大きなけがを負っているのが27.1%と4人に1人を超えています。労災保険の特別加入に関しては、「特別加入していない」が43.1%、「分からない」が13.2%となっていますが、これには家事使用人の特別加入に関する特殊な事情があるからです。
一般の会社に雇用されている労働者であれば、労災の保険料は会社が全額負担しますが、労災に特別加入する場合は自営業者などを営んでいる本人が保険料を払うことによって、病気や怪我になった時に補償が受けられることになります。しかし、家事労働者の場合は、一般家庭が手数料の上乗せとして負担し、それを家政婦紹介所が使用者の代わりとなって納入する仕組みになっています。つまり、家事労働者が労災に特別加入したい場合、派遣先の家庭に保険料の負担をお願いしなければなりません。もちろん、「良心的な家庭」であれば、なんの問題もなく特別加入できるかもしれませんが、多くの家庭は余分な負担はしたくないと考えるはずです。家事労働者は家庭や紹介所等との力関係から、特別加入したいということをそもそも言い出せない場合もあると思います。そういった状況が調査結果に反映されているのではないでしょうか。また、「民間保険に入っている」が57%ということで、多くの家事労働者は事実上「自腹」を切って保険に加入しています。
【働く中で生じたトラブルや困っていること】
・トラブルや困ったことの内容は、「特にない」という回答が66.4%。次いで、多い順に「契約の範囲外の業務を命じられた」が5.8%、「パワハラを受けた」が5.5%、「業務で求められる水準が高すぎる」が4.9%、「家庭からいきなり契約を切られた」が4.5%、「セクハラを受けた」が3.0%となっている。
今回の調査結果について、労働政策審議会に参加をしていた労働者側の参考人からは、「2011年にILOで採択された家事労働者条約の批准や、現行の労基法適用除外の廃止について具体的な検討をするべきだ」などの意見も出ていました。
今回の調査結果については、今後の高裁判決や情報発信へ活用していきたいと思います。また、今後私たちも「家政婦」やベビーシッターなど他の人の家庭内で有償で働いている方(ドメスティックワーカー)を対象とした独自の実態調査を行う予定です。その際には、改めて皆様へ呼びかけをさせていただきたいと思いますので、ぜひご協力をお願い致します。