彼はサボテンが好きだった。3年前に、妻を亡くして孤独になった彼は、何かを育てる喜びを得たくて、妻の遺品の中から一鉢のサボテンを見つけてきた。小さくて丸いサボテンは、彼の部屋の窓辺に置かれた。彼は毎日、霧吹きで水をやって、サボテンに話しかけた。サボテンは妻の形見だった。
しかし、時間が経つにつれて、彼はサボテンに対する愛情を失っていった。仕事が辞められず、孫の顔も見られず、サボテンに水をやるのも忘れることが多くなった。彼は気づいたら1ヶ月も水をあげなかったことがあったが、それでもサボテンは枯れなかった。彼はサボテンを見て、「こいつ死なねーんだな」と思った。毎日水をあげていた頃とか馬鹿らしくなって、それからは一切水をやらなくなった。そして、その存在すら忘れられた。
サボテンは静かに萎み始めた。葉がしおれて茶色くなり、棘が抜け落ちた。そのことに持ち主が気づいた頃にはもう手遅れだった。いくら水をやっても、サボテンは元に戻らなかった。ちょうどサボテンが茶色くしおれきった頃、彼は部屋で息絶えた。老衰だったという。そばの公園で持ち主の変死体が発見された。
やがて春が来た。その死体のあった地面から、一本のサボテンが生えた。小さくて丸いサボテンだった。誰も気づかなかったが、そのサボテンは彼と妻の魂を宿していた。彼らは今でもサボテンとして生きている。そして、毎日水をあげてくれる人を待っている。
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霜月? (s_ptf@misskey.omhnc.net)'s status on Monday, 03-Apr-2023 06:14:04 JST霜月?