北アルプスの麓に位置する奥飛騨温泉郷。雪深い湯の郷の新たな名産品は、なんとドラゴンフルーツ!他にも、ウナギや高級食材のキャビアまで!地下に眠る豊富なエネルギーを使った驚きの取り組みを追跡しました。
■客激減で…“温泉の維持管理費”問題も
豪雪地帯として知られる奥飛騨温泉郷。奥飛騨温泉郷の一つ「中尾温泉」に向かいました。この宿の自慢は、雄大な北アルプスを眺めながら入れる絶景の露天風呂です。
最盛期の1992年、奥飛騨温泉郷には、年間およそ114万人もの人が訪れていましたが、バブル崩壊を機に減少傾向が続き、コロナ禍前の2019年には、およそ半数になりました。
そこで問題になったのが、“温泉の維持管理費”の負担です。
この地区では、共同で8本の温泉井戸を持ち、その維持管理にかかる費用は、年間およそ1000万円に上っていたといいます。
奥飛騨温泉郷・中尾温泉 内野政光さん(80):「お客さんが減っても温泉だけは確保しないと」
■地熱資源量“世界3位”…“共存共栄”実現
そんななか、内野さんが中心となり取り組んできたのが、温泉井戸の一部を使った「地熱発電」です。
中部電力グループ「シーエナジー」・西村和哉さん:「地下から噴出した熱水が、温度で145℃くらい」
地熱発電とは、火山の下にあるマグマの熱によって高温になった蒸気でタービンを回して発電する方法です。
井戸から噴出した蒸気で、巨大なタービンを1分間に6000回転させて発電しています。
実は、日本の地熱資源量は世界3位ながら、実際に利用されているのは、わずか3%弱ということです。その理由の一つとして、温泉資源が枯渇するのではという不安などから、地元から反対されるケースもあるといいます。
しかし、ここでは共存共栄を実現しています。
元々温泉で利用していた井戸の代わりに、発電事業者が新たに井戸を掘り、発電に使用しない温泉水をすべて中尾温泉に提供しています。
内野さん:「井戸を掃除したりする、お金を出さないといけないが、発電事業者が(豊富なお湯を)出してくれた。これが一番ありがたい」
温泉組合は新たな井戸から、豊富な温泉水を安定的に提供されることで、温泉井戸の維持管理費を大幅に削減しています。
一方、発電事業者は十分な蒸気を確保することで、およそ4000世帯分の発電が可能になったということです。まさにウィンウィンの関係です。
温泉への影響は、発電事業者が常にモニタリングして管理しています。
内野さん:「僕も良かったし、これからの若い人も楽しみ」
■雇用&収入増も…「夢が持てるようになった」
中尾温泉での取り組みをきっかけに、奥飛騨温泉郷では次々と地熱発電に挑戦しています。
「宝温泉」でも地熱発電を始めました。
この地熱発電所は、地元の温泉組合と建設会社が共同で開発。今では、主に組合が管理・運営を行っていて、地元の雇用にもつながり、売電収入の中から、年間およそ200万円が入るようになりました。
奥飛騨宝温泉協同組合・田中君明さん(69):「小さい組合なので、ものすごく大きなお金です。夢が持てるようになった」
■“温泉水”生かした農業ハウスで「島バナナ」
一方、別の地区では、豊富な温泉水を使って、こんな試みも始まっています。
農業ハウスの中で、ある特別なものを作っているということです。中は暖かく、すごい湿気です。
ハウスの持ち主・滋野亮太さん(39)。作っているのは…。
滋野さん:「バナナです。これから実が大きくなって食べられるようになる」
一般的なバナナと比べて、大きさが半分ほどの「島バナナ」。栽培が難しく、なかなか流通に乗らないため、高級フルーツとして扱われています。
他にも、インド原産の「カレーリーフ」や熱帯地域原産の「カカオ」なども育てています。
滋野さん:「ここから温泉が、65℃〜70℃くらいです」「(Q.これは温泉水?)源泉の掛け流しですね」
温泉水をパイプに流し、その湯気で気温25℃、湿度90%の高温多湿の環境を維持しています。
通常の設備では、燃料費が月100万円ほどかかるところ、温泉水を利用することで、なんと30分の1に抑えられるといいます。
■温泉資源の恩恵は…“一般家庭”にも!
さらに、温泉水を使って栽培されていたのは、中南米原産のドラゴンフルーツです。
ドラゴンフルーツを栽培「ナベシマ・グループ」 櫻井直樹さん(54):「散々、日本全国の人に言われた」「(Q.何と言われた?)『そんな所でできるはずがない』『ましてや温泉を利用してなんて聞いたことない』と」
雪国で育ったドラゴンフルーツの味は?
山口豊アナウンサー:「ほんのり甘くて酸っぱさは、ほとんど感じません。すごくさわやか」
温泉資源の恩恵は、一般家庭にも…。
奥村敦子さん(76):「『温泉ごたつ』です」
奥飛騨温泉郷では、温泉熱を家の暖房器具や床暖房に利用しています。
奥村さん:「今は電気代が上がったから、あれ?という値段になっているから。これだけでも助かる」
■掘削現場へ「1万世帯分が見込める」
続いて向かったのは、今まさに建設が進む地熱発電所の掘削現場です。
普段は、立ち入り禁止の掘削作業の最前線へ。中央部分でボーリングが行われていて、掘削機が回っています。
現在の深さは、1400メートル。計画では、深さ2000メートルまで掘り進め、発電規模は5000キロワットになる予定です。
再生可能エネルギー開発「ウィンドスマイル」・山田賢治さん:「1万1000世帯分の発電量が見込める」
この発電所の建設を誘致したのが、石田清一さん(70)です。
石田さん:「お金も人もみんな出ていった。それは奥飛騨に魅力がないから。発電所のような魅力ができたら、お金も人も帰ってくる」
■“温泉水”使い…ウナギ&キャビア!?
実は、石田さんは現場のすぐ隣にあるホテルの経営者。客室85室、庭園露天風呂や洞窟風呂など、湯めぐりが楽しめる温泉宿です。
そんな石田さんは、温泉水を利用して“ある挑戦”をしているといいます。
その建物の中には、巨大な水槽が!のぞいてみると…。
山口アナウンサー:「ウナギが出てきた。顔を出してる」
この施設では、およそ1000匹のウナギを、なんと温泉水で養殖しています。
石田さんのホテルでも、温泉うなぎとして提供する予定です。
石田さん:「(Q.温泉水での育ち具合は?)最高に良い!肉質もしっかりしてて、すごくおいしい」「こんなやつが半年〜1年で、この大きさになる」
他にも、スッポンが2万5000匹います。
石田さん:「(Q.元気ですね)色がすごく良いでしょ」
さらに別の水槽では、なんとチョウザメまで養殖。「奥飛騨キャビア」と名付け、新たな名産品として販売しています。
石田さん:「温泉は入るだけではない。ある程度、湧出(ゆうしゅつ)量があれば、温泉養殖をすると楽だし便利。自社で育てたスッポンやチョウザメを、大事なお客さんにおいしく食べていただく、それが一番」
■豊富な地下資源「奥飛騨を日本のサウジに」
地熱発電所の完成予定は3年後、奥飛騨には日本有数の地熱資源が眠っていると、石田さんは期待しています。
石田さん:「いずれは(奥飛騨を)日本のサウジアラビアにしたい。『早く出よ』『熱いお湯いっぱい出よ』と、そうすると奥飛騨の人の夢が広がる」
地熱発電によって、蘇る奥飛騨温泉郷。豊富な地下エネルギーを生かした挑戦は続きます。