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- Embed this notice膠着していた事態は徐々にだが収束に向かっている。
それでも散歩帰りにしか見えない格好をした金髪の女が現場にズカズカと踏み込んでいくと、退避命令を聞かなかった野次馬は不安そうに顔を見合わせる。そういったことを見るのは二回目だからだ。
「君も来てたんだ」
防弾防刃繊維が編み込まれた防火衣を被った銀髪の少女に声を掛ける。やや小ぶりな身長とそれに見合った顔付きとは裏腹に、45口径亜音速弾が装填されたサプレッサー付きのライフルを携えていた。短銃身とはいえそれなりに取り回しに苦労しそうだ。
「仕事です。貴女こそ何しに?」
久しく会っていない知り合いを目の当たりにして、呆れかえるような口ぶりで言い返した。元は非番なのに事件の重大性を鑑みた署長が呼びつけて、少女も不機嫌だ。
「私は市長に呼ばれたんだけど。何をしたら良いの?」
余計に少女は深いため息を吐いた。彼の支持率ならニューヨーク市民からは高い。
「何か持ってきてますか?」
パーカーのポケットからポリマーフレームの拳銃とマガジンが二本現れる。それは警察の制式採用拳銃と殆ど変わらない。ただフロントサイトにオレンジ色の蛍光塗料が塗られていた。
「後で携帯許可証を見せてください」
文民として入国している彼女は微笑んだ。そんなものを持ち合わせていないのは周知の事実だった。
「相変わらずお堅いこと。EOD(Explosive Ordnance Disposal:爆発物処理)もある?」
「ありますよ」
彼女の微笑みが凍り付いた。聞いてない話だった。
「安請け合いするんじゃなかった」
「別にいいじゃないですか。貴女は一回か二回くらい」
「そういう問題ではなくて……まあいいや。来たみたい」
二人ともそれぞれボルトとスライドを引いて装填を確認する。少女は安全装置の確認も必要だった。セレクタはセミオートに設定してある。
「スタンかデモは?」
「一つずつ頂戴」
少女は腰に携えた手榴弾を二つ彼女に預けた。どちらも破片は飛ばさないが、爆風か閃光を放つ。
「それAPI(Armor Piercing Incendiary:徹甲焼夷弾)よね?」
「はい。なので停められますよ」
少女は付け加える。
「人質が乗ってる装甲車でなければ」
やっと人間たちの耳にも爆走する車両二台が捉えられるようになってきた。
「カバーします」
「よろしく、マイケル警視正」
彼女は地面を蹴って駆け出た。
「……だからミシェルです」
その後を少女は追う。ミシェルが昇進してからは会っていなかった。