ことのはじまりは、ひとりの旅客が十七番線のトイレで不審物を見つけたことだった。地方都市から買い出しにきたその旅客は、列車が到着するやいなや、トイレへと駆け込んだ。用を足して個室から出たとき、大きなスーツケースに気づいた。なんとなくいやな感覚をおぼえたその旅客は、すぐに駅員室に行って報告した。
駅員は、小型の検査機を持ってトイレへ向かった。危険な化学物質や爆発物が検知されれば、音で知らせてくれる。
この駅では、不審物の報告など日に二百件は来る。検査機をかざすのは、念のためにすぎない。たいがい、正体はただの忘れ物だ。駅員はいつものように機械をかざした。
けたたましい警告音が鳴った。駅員は血の気が引くのを感じた。いままで何万件という不審物を処理してきたが、検査機が鳴ったことはない。手もとの画面を見た。
「バクハツブツ ケンチ」
十七番線のトイレには立入禁止の札が立てられ、駅じゅうに放送が流れた。この放送の文句は、つぎのとおりだった。駅員の震えた声だった。...
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