「トランスジェンダー問題」とはつまりトランスではない人々の問題だということ。マイノリティに関してその名を冠して「〇〇問題」と括られるものは、それ以外の我々の問題だということ
"その典型として、トランスたちは「トランスジェンダー問題」としてひとくくりにされる。これはトランスたちの生の複雑さを捨て去り、抹消するものであり、また様々な社会的不安を抱かせるにたる一軍のステレオタイプへとトランスたちの生を還元するものである。概してトランスジェンダー問題は、テレビ番組や新聞のオピニオン欄、そして大学の哲学科で(たいていその人たち自身はトランスではない人々によって)お喋りされるための、「中毒性のある論争」や「難しい問題」と見なされている。現実のトランスたちが、そこで目を向けられることは滅多にない。この本は、「トランスジェンダー問題」という言葉〈ルビ:フレーズ〉を意図的に、そして意識的に奪い返す。それは、今日トランスの人々が直面している諸問題のリアリティを大まかに示すためであり、そうした問題に直面してはいない人々によってその問題が想像されるのとは違った仕方で、それを示すためである。"
ショーン・フェイ (著), 高井 ゆと里 (訳)(2022). トランスジェンダー問題 議論は正義のために 明石書店 p8-9