そういえば先日、誕生日の朝、なぜかギレルモ・デル・トロ『ナイトメア・アリー』(2021)をディズニー+で観はじめて、その日いちにち何もする気が起こらないほどダメージを受けた。たぶんデル・トロ作品で言えば『パンズラビリンス』とか『ピノッキオ』に比べれば、一般受けはしないかもしれないけど、これは「クトゥルフ的わたくし映画」なのではないかと思った。主人公の詐欺師は映画監督のメタファーで、デル・トロにはインポスター症候群的な感覚があるんじゃないかなあ。僕はそこに詐欺師=物書きの自分を重ねたわけだが。正直2時間過ぎまで失敗作と思ってたけど、最後がほんとうにすごい。これしかない。もうほんとこの場面を、この最後のたった一言を、その表情を、描きたかったのだよな。父殺しの罪悪感の話ではない。それは作中で繰り返し「つまらない一般的な話」としてペラペラなものだと確認される。ラストは、普通に考えれば、予言通りの最低最悪な、嫌な、鬱エンドなんだけど、前に『驚異の部屋』について書いたように、あれは最高の享楽であり、純粋な幸福なんじゃないかなあ。…なんてことを思って、いちにち、ぐったりしていたのだった