それは、端的に言えば超越の否定だ。
鬼滅の刃における「鬼」はあきらかに吸血鬼をモチーフにしていて、そして西洋のモダンホラーにおける吸血鬼と同じく、人間のみを捕食する生物として食物連鎖において人間の上位にあるものとされ、進化樹において人間よりも進歩したものとして位置付けられている。それは食物連鎖や進化という概念の誤用なのだが、作者はとりあえずその観念を使う。
この作品で悪役として登場する上級の鬼たちは、何らかの形で人間が能力として捉えるものを拡張し、超人間的な存在に飛躍しようとする。それは例えば身体能力であったり、外見の美しさであったり、美的センスであったり、エモーショナルな感受性であったり、洞察力であったり、論理的思考能力であったりする。
鬼滅隊はそうした超越志向に一つ一つ立ち向かう。もちろん、その時に罠としてあるのは、主人公たち自身が超人的な能力を身に付けようとするという誘惑である。