森有正は「体験」と「経験」を区別している(『生きることと考えること』)。人は自分が経験したことの中で、その一部分だけを特に貴重なものとして固定すると、過去的なものになったままで現在に働きかけ、それがその後のその人の行動のすべてを支配するようになる。森はこれを「体験」と呼んでいる。
これに対して、経験の内容が絶えず新しいものによって壊され、新しいものとして成立し直されていくのが「経験」である。過去に経験したことをいつも同じようにしか見なければ、経験は凝固し体験になってしまう。しかし、たった一度きりの経験であっても、絶えずその経験の意味を反芻し、そこに新しい意味を見出していけば過去に経験したことは体験ではなく「経験」になる。
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岸見一郎 Ichiro Kishimi (kishimi@mstdn.jp)'s status on Tuesday, 06-Dec-2022 13:38:44 JST岸見一郎 Ichiro Kishimi