加藤周一は次のようにもいっている。
「一九六〇年代の後半に、アメリカのヴィエトナム征伐に抗議してワシントンへ集まった『ヒッピーズ』が、武装した兵隊の一列と相対して、地面に座り込んだとき、そのなかの一人の若い女が、片手を伸ばし、眼のまえの無表情な兵士に向って差しだした一輪の小さな花ほど美しい花は、地上のどこにもなかっただろう。その花は、サン・テックス Saint-Exの星の王子が愛した小さな薔薇である。また聖書にソロモンの栄華の極みにも比敵したという野の百合である」(『小さな花』)
一方に、史上空前の武力、他方に、無力な女性。一方に、アメリカ帝国の組織と合理的な計算、他方には無名の個人とその感情の自発性。権力対市民。自動小銃対小さな花。
一方が他方を踏みにじることは容易である。しかし、人は小さな花を愛することはできても、帝国を愛することはできない。
「花を踏みにじる権力は、愛することの可能性そのものを破壊するのである」(前傾書)
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岸見一郎 Ichiro Kishimi (kishimi@mstdn.jp)'s status on Monday, 05-Dec-2022 13:36:32 JST岸見一郎 Ichiro Kishimi