ウクライナ南部にあるザポリージャ原発は、侵攻したロシア軍が2022年3月から占拠しているが、その間ずっと、施設に対する砲撃が加えられてきた。11月19日から20日にかけても多数の砲撃があり、施設の一部が損傷した。これを受けて、ロシアの原子力企業「ロスアトム」のトップ、アレクセイ・リハチョフ氏は21日、「原発事故が発生する危険性がある」と警告を発している。 ザポリージャ原発に多数の砲撃、施設の一部損傷…IAEA事務局長「危険なほど接近」(読売新聞、2022年11月21日) ザポリージャ原発で「原発事故の危険性」 ロシア原子力企業トップ(CNN、2022年11月22日) もし欧州最大規模のザポリージャ原発が破壊されれば、ウクライナはもとより、ユーラシア大陸中央部を中心にロシアや欧州まで、壊滅的な核汚染の被害が広がる。その原発に対し、危険な攻撃を仕掛けることは、常軌を逸しているとしか言いようがない。 その常軌を逸した攻撃を、いったい誰が行っているのか。 これについては、当初から、ウクライナとロシアの双方が相手側だと主張し続けている。9月に現場を査察した国際原子力機関(IAEA)は、報告書の中で、誰が砲撃したかを明らかにしていない。 そうした中で、9月13日付の『ニューヨーク・タイムズ』が、きわめて重要な情報を報じた。それは、ウクライナ軍が英米の協力を得て、9月からの反転攻勢によりウクライナ南部を奪還した舞台裏を報じた記事である。この記事は、多数の米国高官が匿名を条件に取材に応じていることから、記事の内容を、米国政府が事実上、認めていると言える。 記事中で、ウクライナの戦略のマスター・プランが明かされている。その1つがザポリージャ原発の奪還なのである。 つまりウクライナ軍は、以前から原発奪還の攻撃を計画しており、それを実行していることを意味する。 しかし、原発を奪還することと、原発そのものに対して攻撃を浴びせることは、本来、まったく別のオペレーションである。原発を奪還するために、占領下においているロシア軍を脅かすためとはいえ、ウクライナ軍側が多少の原発の損傷はいとわないと考えているとしたら、その判断はクレージーであるとしか言いようがない。