で、その大将の居酒屋であるが、そこで侃々諤々の議論を院生仲間や大学教員の方々と繰り広げていたわけであるが、特に仲の良かった女性の教員の1人がガンになり、かなり末期だと言うのでドイツから日本に出張した折に見舞いに行こうと連絡したら、件の居酒屋にこい、との返事があり、「治ったのかな」と思い、指定の時間、早めの夕方に行ってみたら、居酒屋は貸し切りになっていて、カウンターで大将がひとり待っていた。「病院からタクシーで来るっていってはる」というので、生中片手にドイツの話や司馬遼太郎の話をしていたら、本当にその末期がん患者の先生が登場し「なんでも好きなものたのめ!」というのが第一声であった。ひとしきり話したあと、ちょっとやっぱり無理だから、と私の勘定をすませ、別れの挨拶をし、私はまた1人カウンターにのこされた。なんとも胸熱な時間で、ぐい呑の八海山を前に、どうしたらいいのかな、と大将にきいたら「みうらあ、出世せーや!先生への恩返しは出世することや!」であった。