小池先生が書かれているように、松沢裕作『生きづらい明治社会』(岩波ジュニア新書)は名著。「あとがき」にはこんな言葉がある。司馬遼太郎すらいまはもう読まれないと最近、同僚の日本史の先生に苦笑交じりで聞いたが、「維新」シンパも含めてなぜか肥大する明治維新への幻想は、いちどしっかり等身大に見なおされるべき。
「明治維新という大きな変革は、江戸時代の社会の仕組みを壊しました。江戸時代の村請制による連帯責任のように、相互に助けあうことを強いられていた人びとの結びつきはなくなります。できたばかりの小さくて弱い政府は頼りになりません。頼りになるのは自分の努力だけです。こうした状況のもとでは、ともかくも人はがんばってみるしかありません。がんばって成功した人は、自分の成功は自分のがんばりのおかげだと主張します。成功しなかった人は、ああがんばりが足りなかったのだなあと思いこむようになります。本当は、成功した人は運が良かっただけかもしれず、失敗した人は運が悪かっただけかもしれないとしても、です。私は、この本のなかで、こうした思考のパターンに人びとがはまりこんでゆくことを「通俗道徳のわな」と呼びました。」