たとえ自分の人生にそれ以外の何ものもないとしても、ただそのためにだけ生きたい時間を加藤周一は「美しい時間」と呼ぶ。
「細い径の両側に薄の穂がのびて、秋草が咲いていた。雑木林の上に空が拡り、青い空の奥に小さな雲が動く。風はなく、どこからも音は聞えて来ない。信州の追分の村の外れで、高い秋と秋草の径は、そのとき私に限りなく美しく見えた。たとえ私の生涯にそれ以外の何もないとしても、この美しい時間のあるかぎり、ただそのためにだけでも生きてゆきたい…」(加藤周一『小さな花』)
今の私にとっては孫たちと語らったり、韓国語の小説やエッセイを読む時間である。
「その人にとっての一つの小さな花の価値は、地上のどんなものと比較しても測り知ることができない。したがってひとびとがそういう時間をもつ可能性を破壊すること、殊にそれを物理的に破壊すること、たとえば死刑や戦争に、私は賛成しないのである」(前掲書)
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岸見一郎 Ichiro Kishimi (kishimi@mstdn.jp)'s status on Sunday, 04-Dec-2022 21:22:50 JST 岸見一郎 Ichiro Kishimi