人のオーラが見えるの、と彼女が言った。僕らは市場の横の古い商店街を駅に向かって歩いていたところで、午後のまだ早い時間だった。空は例によって暗く曇っている。オーラって色なの、と僕は訊ねた。
「そう、かな。色、みたいなもの。その人を包み込むようにね、見えるの」
僕はそのての話しが苦手だった。昨夜の夢、前世や来世、宇宙やチャクラやなんやらかんやら。
「じゃあ僕のオーラも見えるんだ」と、だからどんなふうにそう言ったのか、想像できると思う。「センセイはね、とってもきれいな」と、彼女はそこまで言って言葉を切った。だからそれ以上、僕らはその話しを続けなかった。
僕らは電車にのって友人のライブに出掛けるところだった。それはとても素敵な演奏で、カリブ海のどこかに僕らを運んでくれた。何本かのビールとたくさんのラム酒を飲んで幸せだった。とても幸せだったはずなのに、翌日、いや、あるいはその夜のうちだったのかもしれないが、彼女は消えた。完全に、僕の目の前から消えてしまった。だから、例えばこんな冬の始まりの薄日の射す午後に、時々思い出すんだよ。僕のオーラって、どんな感じなんだろう。ちゃんと聞いておけばよかったよ。どんなふうにきれいだったのかな。今もその、きれいなままでいられているだろうか。でもやっぱり僕は、そのての話しが苦手だ。
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Nāga Hisashi (isladelamusica@fedibird.com)'s status on Saturday, 03-Dec-2022 10:44:03 JST Nāga Hisashi