彼方に立つ尖塔は形すら見えなかったけど確かに私は憧れていて、でもあなたが嬉しそうに京都行きの切符を抱えていると、私はそのたびに奪って破り捨てたくなっていました。京都に行くあなたへの嫉妬心で無かったことだけは確かです。駅舎にぽつんと佇む自動販売機も、あともう少ししたらボウッと闇夜に浮かび上がるようになる時間帯に、あなたは電車に乗り込んで行きました。誰も乗らない小さな駅舎の階段を、あなたと昇り降りして遊んだことを忘れません。用水路にはまりそうになった、当時は私より小さかったあなたを、必死に引き揚げたことを忘れません。京都行きを喜ぶあなたの目に確かに混じっていた、一抹の寂しさを忘れません。だからあなた、泣かないで。私はあなたを笑顔で送り出すことで、あなたの道行に私だけの花を添えたいのです。本当は、あなたの涙が定型的で綺麗な物語をつむぐ前にあなたの涙を止めたかった。雪に閉ざされた優しい場所で、あなたの美しい向上心を圧し潰してしまいたかった。全てがダメになる前に泣けば良かった。あのとき切符を破り捨てれば良かった。別れなんて、無ければ良かった。だから私は笑って言うのです。ありがとう。大好きでした。