「潰しが効く」というので思い出すのは、私自身のことだ。受験生の時、私は文学部に行きたかった。しかし、周囲の大人たちが「法学部の方が潰しが効く」と言うのに従って法学部に行った。それが結局は大失敗だった。私は寅ちゃんとは全く違う質の人間で、法学には全然向いていなかった。
「潰しが効く」という時の「潰す」は、Aを潰す力を身に付けていれば、たといAに失敗しても、BなりCなりを潰すことが出来る、と言う意味ではない。そうではなくて、Aを目指して形成したものは、たといAに出来なくても、潰してBなりCに再形成することが出来る、という意味だ。つまり、君は潰す主体ではなく潰される客体だ。
潰されることを目指しちゃダメなんです。私はそのせいで10年ぐらい遠回りした。
受験の20年後ぐらい、やっと自分に向いた仕事につくことが出来て少し楽しくなったと思えるようになった頃、何かのおりにMさん(母)が「私はあの時、あんたの言うとおりに文学部に行ったら良いと思ったんやけどな」と言った。くぅ、知ってたのか、もっと早く言ってくれよ、と思った。