たとえば、『正義論』ではケア関係が人間にとって不可欠の存在基盤であることが無視されていると批判したキティは、ケアの倫理が西洋哲学の歴史を通じて顧みられてこなかったことを、驚きをもって受け止めている。彼女にとっては、ケアをめぐる問題は、すでに見てきたように、いかにより良いケアを必要なひとに提供するかという点を捉えてみても、人びとにさまざまな判断を迫る道徳的問題であることは明らかである。
しかしキティによれば、倫理学の古典であるアリストテレスの『二コマコス倫理学』では友情についての議論はあっても、ケアの与え手と受け手という非対称的な関係性についての言及はない。義務論的な正義論にとっての拠り所の一つであるカント哲学においては、ケアは義務でなく慈愛である。たしかに慈愛といった動機がケア関係に働いていることがあるかもしれないが、ケアが慈愛そのものだとはいいがたい。『ケアの倫理―フェミニズムの政治思想』岡野八代 p236
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カンミ (pantabekanmi@mastodon-japan.net)'s status on Wednesday, 06-Nov-2024 10:18:07 JST カンミ