三菱樹脂事件(みつびしじゅしじけん)とは、日本国憲法における基本的人権に関する規定は私人相互の間にも適用されるのか否か、ということ(いわゆる「憲法の私人間効力」)が争われた代表的な民事訴訟事件の名称である。マスコミなどからは「三菱樹脂採用拒否事件」などと呼ばれる場合もある。
事件のあらまし
訴訟に至った経緯
1963年(昭和38年)3月に、東北大学法学部を卒業した原告・高野達男は、三菱樹脂株式会社に、将来の管理職候補として、3ヶ月の試用期間の後に雇用契約を解除することができる権利を留保するという条件の下で採用されることとなった。ところが、高野が大学在学中に学生運動に参加したかどうかを採用試験の際に尋ねられ、当時これを否定したものの、その後の三菱樹脂側の調査で、高野がいわゆる60年安保闘争に参加していた、という事実が発覚し、「本件雇用契約は詐欺によるもの」として、試用期間満了に際し、高野の本採用を拒否した。これに対し、高野が雇用契約上の地位を保全する仮処分決定(東京地裁昭和39年4月27日決定)を得た上で、「三菱樹脂による本採用の拒否は被用者の思想・信条の自由を侵害するもの」として、雇用契約上の地位を確認する訴えを東京地方裁判所に起こした。
訴訟の争点および過程
一審の東京地方裁判所(1967年〈昭和42年〉7月17日判決)は高野の訴えを認めた。二審の東京高等裁判所(1968年〈昭和43年〉6月12日判決)では「通常の商事会社においては、新聞社、学校等特殊の政治思想的環境にあるものと異なり、特定の政治的思想・信条を有する者を雇用することが、その思想、信条ゆえに直ちに、事業の遂行の支障をきたすとは考えられず、応募者にその政治的思想・信条に関係のある事項を申告させる事は許されない」として高野の訴えを認めた。そのため、三菱樹脂は最高裁判所に上告を行った…