1980年代以降選挙で連戦連敗のイギリス労働党は、選挙で勝つためには「新自由主義」の「痛み」を強く受ける「周辺層=負け組」の支持だけでは足りず、サッチャーによる「新自由主義」を大枠で肯定することによって「新自由主義」を支持する「中・上層」の支持を獲得しなければならないと考えるようになる。そして、1997年に政権を取った労働党のブレア政権は「ニューレイバー路線」を打ち出していく。
「ニューレイバー路線」の特徴は「経済財政政策」と「社会統合の再建」の二つ。
「経済財政政策」については、資本が自由かつ迅速に移動するようになったグローバル経済のもとで一国の政府が取れる政策的選択肢は限られているという「グローバリズム」の理論が強調され、その結果ケインズ主義的な「完全雇用政策」や所得再分配的な「累進課税の強化」が否定されるとともに、「インフレ抑制」と「財政規律の維持」という「新自由主義」的な政策がとられるようになる。
「社会統合の再建」については、貧困や失業といった「社会的排除」に対して「就労を通じた社会的包摂」を試みるも、ケインズ主義的な雇用政策を否定しているため安定的な雇用を十分に保障するものではなく、失業者に対して福祉の受給条件として勤労を求める(≒就労を強制する)「ワークフェア」的な性格を強く持つようになる。
また、包摂政策が限界を迎えると、ブレア政権もサッチャー政権と同様に社会秩序を維持するための治安国家的な政策が強化されることになる。サッチャー政権の治安政策が労組のストや都市暴動のような、集団的形態の反抗を抑え込むという性格が強かったのに対して、ブレア政権の治安政策は社会秩序からの個人化・個別化された逸脱行動の取り締まりを主眼としていた。
「ニューレイバー」の社会統合の再建策は、結局のところ排除された下層に対して権威主義的な介入を強めるものであり、「二つの国民」型統合を維持していた。
こういったイギリスの流れを見ていくと、日本の今の状況はこの「焼き直し」としか思えない。「新自由主義」を政策の柱とする与党に対抗するはずの野党も「新自由主義」を前提としている点は「ニューレイバー路線」の労働党と同じだし、「社会秩序を維持するための治安国家的な政策が強化される」なんてまんま現在の日本。「『新自由主義』の道を少し遅れて歩む」のはもう止めませんか?その道は「地獄」行きですよ。