トレーラーを止めたジェラルドは、おれの姿に首を傾げて運転席から降り立った。三ヶ月の旅を経て白かった頬は日に灼け、無精髭に覆われていた。 「ジャンボさん、どうしてここに?」 「賄賂が通用しなかったんだ。こちらがトホノ・オ=アダムの長老だ」 握手を求められた長老は首を振った。 「だめだ。<cstyle:傍点>彼<cstyle:>の支持者は通さない」 「彼は違う。なあ、ジェラルドさん。帽子を捨てて、あなたは違うって証明してやってくれよ」 ジェラルドは帽子の鍔を撫でた。 「おれは<cstyle:傍点>彼<cstyle:>に投票した」 「なんだって?」 叫んだおれの横で長老はゆっくりと、しかし力強く北を指さした。 「戻りなさい。五十キロも行けば、君の大好きなアメリカに帰れる」 「おい、ジェラルド。今は後悔してるんだよな」と口添えしたおれにジェラルドは首を振った。 「いや、必要だった。もしも今回あの女が勝っていたら、声をあげるチャンスは永遠にやってこなかった」 「確かにな」と、ため息をついた長老はゆったりと腕を組んで言った。「二〇二〇年の国勢調査で大統領選挙人の構成が変わる。昨年彼を勝たせた支持者が再び彼に投票しても、もう勝てないだろう。それで、どうだった? 勝たせて」 ジェラルドは顔をしかめた。 「やつはバカだった」 「分かってたことじゃないか」 「程度の問題だ! オープンガバメントを全部逆転させるなんて誰が想像できる。<cRuby:1><cRubyString:データ・ドット・ゴヴ>data.gov<cRuby:><cRubyString:>もFlickrにアップされた写真も、機密の解かれた公文書も全部公開停止だ!」 「オープンガバメント? 君は──」 「おれはアメリカを保存した。可能な限りの文書を持ってきたよ。二十ペタバイトの歴史だ。頼む。通してくれ」 長老は首を振った。 「だめだな」 「どうして!」 「データはわたしたちが預かる。ジャンボさん、メンテナンスする方法を教えてくれないか」 「構わないが……」 コンテナに視線を向けた長老はにこりと笑った。 「オープンガバメントが公開した公文書には、アメリカ政府がこの土地を勝手に売り買いしたときの記録が残っている。先祖の写真もだ。前の大統領が公開してくれたとき、どれほど嬉しかっことか。それが失われようとしていたのか」 ジェラルドは我に返ったかのように口を開いた。 「……だから、おれがメキシコに持っていくよ。オープンガバメントが再開したら、データを提供する」 「あなたは帰るんだ」 長老はジェラルドの通ってきた道を指さした。 「そして二〇二〇年、今度はまともな方へ投票してくれないか」
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