「三十二ペタバイト……凄いな。ありがとうよ、ジャンボさん」 トレーラーのだだっ広い運転席と助手席の間にMacBookを広げた置いた男が口笛を吹いた。ペタバイト級のストレージを調達するよう依頼してきた、ジェラルド・バウアーだ。 「たいしたことじゃない。買って繋いだだけだよ」 おれは背後を親指で指した。トレーラーヘッドが牽引するのは、十二本のサーバーラックを満載したコンテナだ。 「<cRuby:1><cRubyString:ドゥロボ>Drobo<cRuby:><cRubyString:>5Dを五百十二台。これをXsanで束ねてマウントしてある。ハードディスクは二千五百六十台。これだけあると週に一つか二つはクラッシュするから、予備のHDDも五百台ほど積んどいた。ダッシュボードにアラートが出たら、ランプの付いたHDDを交換すればいい」 頷きながら「助かる、助かるよ」と繰り返したジェラルドへおれは言った。 「助かるのはアメリカだろう?」 「その通りだ」 ジェラルドはドアポケットから米国の地図をとりだしてハンドルに押しつけた。地図には、出発地点のミシガン──寂れた工業地帯からボストンへ向かい、ニューヨーク、ワシントンDC、リッチモンドなどの東海岸の主要な都市を辿ってフロリダ半島の根元であるジャクソンビルで西に向かうルートが描かれていた。南部を西に向かうルートは途中で南に折れ、メキシコとの国境を越える場所まで描かれていた。そこは、<cstyle:傍点>壁<cstyle:>がどうしても建設できない場所だった。 「まさか国境を跨ぐインディア──」 「居留地を通るときはその言葉を使うなよ。パパゴ族もだめだ。あれはスペイン人の征服者たちが豆のような奴ら、という意味でつけた名前だ。彼らは自分自身を〝トホノ・オ=オダム〟と呼ぶ」 口を尖らせながら頷いたジェラルドにおれは念を押した。 「居留地に着いたらアレフという男を呼べ。長老の側近だ。そいつに金を払っておいた。トレーラーで国境を越えられる場所を案内してくれる」 ジェラルドの旅は過酷だ。彼は三ヶ月ほどかけて主要都市を巡り、ホットスポットからアメリカ政府が公開しているすべての情報をダウンロードしてDroboに蓄え、メキシコへ向かう。 「幸運を祈るよ」 おれはジェラルドの肩を叩いて、高い助手席から地面に下りた。運転席でハンドルを握ったジェラルドは、いつのまにか赤いキャップを被っていた。キャップの額には白い糸で《グレート・アメリカ・アゲイン》と刺繡されていた。 おれは笑った。 「いい偽装だな! 狂った大統領からオープンガバメントのデータを救おうとしているなんて誰も思わないさ」 ジェラルドはふっと笑って窓を閉め、五百馬力を絞り出すキャタピラー社製のC<ctcy:1>15<ctcy:>エンジンに火を入れた。空気を震わせる咆哮に続いてコンテナを牽いたトレーラーが動き出す。 あわてた避けたおれの目の前を通り過ぎていくジェラルドは、なぜか歯を食いしばっているように見えた。 <ParaStyle:02_本文_中央揃え>* <ParaStyle:01_本文_明朝体> おれは砂漠のキャンプに呼び出された。渡しておいた賄賂が長老にばれてしまい、ジェラルドともども、メキシコへ行く理由を直接話すことになったのだ。 キャンプでは、砂漠を横切る国境のフェンスを撤去しているところだった
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