私と彼の世界は広くて二人きりになれない。双眼鏡に望遠鏡、オペラグラスを持ち寄った二人だから、世界がよく見えた。肩を寄せあって、毛布にくるまって、二人きりになる方法を探してレンズを覗き込む。私が抱きつくと、彼が抱き返してくれた。こうすれば二人の世界が完成するかもね、という私に彼は囁いた。 「ねぇ、『二人』になろうよ」 え、どういうこと? 二人きりになりたくないの? 「思ったんだ。世界はこんなに広いのに、『二人きり』になるなんて勿体ないよ」 変化を楽しもう、と彼は言った。二人きりだった毛布を取って、彼は私に差し出す。私は毛布を払い「嫌だ!」と叫んだ。 睫毛に付いた涙を彼は拭いてくれなかった。自分で拭うと、彼は笑って私の肩に毛布をかけた。 「変化って、あなたはさっきまでのあなたじゃないってこと?」
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