“奥泉 この本にはさまざまな論点がありますが、ダワーが強調しているのが、天皇と国民はイノセント(無垢(むく))だったという「神話」ができあがったということ。もう一つは、戦中の官僚組織がそのまま温存され、むしろ強化された点です。
どこの国の民主主義も問題をはらみますが、天皇と民衆はイノセントだったという、GHQと日本の合作でできあがった神話が民主主義をゆがめたといえる。神話の中でアジアや沖縄が消えたのも大きい。戦地や植民地で苦労した人の物語はあるが、加害の立場を含め、実際にアジアで何が起きたかという点が消えてしまった。
また官僚組織が強化された結果、満蒙開拓団のような悲劇を引き起こすシステムの問題点は克服されないまま残ってしまった。”
◆増補版 敗北を抱きしめて 上・下 ジョン・ダワー著、三浦陽一ほか訳(岩波書店・上3080円、下3300円)
今週の本棚
鼎談 日本の敗戦 評者・加藤陽子、池澤夏樹、奥泉光https://mainichi.jp/articles/20230729/ddm/015/070/010000c?s=09